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主文
1原告の請求を棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。第2事案の概要
本件は,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有者である原告が,本件建物の賃借人である被告に対し,被告において再生手続開始の申立てをしたことが,原被告間の賃貸借契約において契約解除原因とされる「和議等の申立て」に該当するので同契約を解除したと主張して,本件建物の明渡しを求めた事案である。1争いのない事実等
(1)原告は,本件建物を所有している。
(2)原告は,平成10年5月1日,被告との間で,本件建物について以下の内容の賃貸借契約を締結し(以下「本件賃貸借契約」という。),同年9月1日,本件賃貸借契約に基づき,本件建物を被告に引き渡した。
ア賃料は1か月100万円(消費税別)とし,被告は,原告に対し,毎月末日までに翌月分の賃料を原告指定の銀行口座に振り込む方法により支払う。
イ被告につき破産,和議等の申立てがあったときは,原告は,被告に対し,催告を要せず本件賃貸借契約を解除できる(10条3号。
以下「本件特約条項」という。)。
(3)被告は,平成12年12月20日,名古屋地方裁判所に,民事再生法による再生手続開始の申立てをし,同裁判所は,平成13年1月15日,被告について再生手続を開始する決定をした。
(4)原告は,平成13年3月1日付け書面により,被告に対し,被告がした再生手続開始の申立ては本件特約条項の「和議の申立て」に該当するので,本件特約条項に基づいて本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし,同書面は,同月5日,被告に到達した。
(5) 被告は,平成13年8月20日,名古屋地方裁判所に再生計画案を提出し,同裁判所は,同年10月16日,この再生計画を認可する決定をし,同決定は同年11月16日の経過によって確定した。
被告の再生計画では,再生債権者の権利の変更及び弁済の方法について,以下のとおり定められている(乙4)。
ア元本50万円以下の再生債権については,再生計画認可決定確定後,平成14年2月20日に元本の全額を支払う。
イ元本50万円を超える再生債権については,再生計画認可決定が確定したときに,元本の85パーセント及び利息・遅延損害金の全額について免除を受け,再生計画認可決定確定後,元本の15パーセントを平成15年2月20日から平成23年8月20日までの間に10回に分けて支払う。
ウ元本50万円を超える再生債権について,再生計画認可決定が確定した日から2週間以内に再生債務者に対して元本50万円を超える元本部分を放棄する旨を文書で申し出た場合は,アと同様に,再生計画認可決定確定後,平成14年2月20日に残元本の全額(50万円)を支払う。
2争点
本件の争点は,1被告がした再生手続開始の申立ては,本件特約条項にいう「和議の申立て」に該当するか,2本件特約条項は,民事再生法の趣旨等に反し無効か,3原告が被告に民事再生法49条2項の催告をしなかったことから,原告の解除の意思表示は無効といえるか,4原告と被告との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるか,5原告がした本件賃貸借契約の解除は権利の濫用か,である。
(1) 争点1(被告がした再生手続開始の申立ては,本件特約条項にいう「和議の申立て」に該当するか)について
ア原告の主張
本件特約条項において和議の申立てが解除原因とされている趣旨は,和議手続においては,手続開始前の未払賃料は,和議が認可されればそれに従って減額されるし,手続開始後の賃料については,減額されることはなくても,弁済が不確実になるおそれが大きく,賃料が約定どおり支払われることを根本とする当事者間の信頼関係が破壊されてしまうことにある。
再生手続は和議手続に代わる再建型倒産処理手続であり,和議手続について述べた以上の事柄は再生手続にそのまま当てはまるから,被告がした再生手続開始の申立ては,本件特約条項にいう「和議の申立て」に該当する。
イ被告の主張
和議手続の開始原因は破産原因と同一であったが,民事再生法においてはこれが緩和され,「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」にも再生手続開始の申立てができることとされている(21条1項後段)ところ,被告は,この開始原因に基づいて再生手続開始の申立てを行い,再生手続開始決定においてもこれが採用されている。
したがって,被告がした再生手続開始の申立ては,破産原因によるものではなく,本件特約条項にいう「和議の申立て」とは内容が全く異なるから,これには該当しない。
(2)争点2(本件特約条項は,民事再生法の趣旨等に反し無効か)についてア被告の主張
仮に,被告がした再生手続開始の申立てが本件特約条項にいう「和議等の申立て」に該当するとしても,債権者その他利害関係人の利害を調整しつつ再生債務者の再生を図ろうという民事再生手続の趣旨等からすれば,再生手続開始の申立て自体を解除原因とする本件特約条項のような合意は,前記趣旨等に著しく反するので,無効である。
イ原告の主張
一般的に,契約当事者間において法律の規定と異なる合意をすることは当然に可能であるところ,前記(1)アの趣旨により,原告と被告とが本件特約条項のとおり合意したのであるから,これが無効とされる理由はない。
(3)争点3(原告が被告に民事再生法49条2項の催告をしなかったことから,原告の解除の意思表示は無効といえるか)について
ア被告の主張
被告は,再生手続開始決定の後,民事再生法49条1項により,本件賃貸借契約を解除することなく,賃料支払という債務の履行を選択し,本件建物の使用という原告の債務の履行を請求して現在に至っているところ,この場合,原告は,同条2項により,被告に対し,相当の期間を定め,その期間内に契約の解除をするか又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができたのに,この催告権を行使することなく,被告からの賃料を受領し,被告が本件建物を使用することを認めていた。
したがって,原告がした本件賃貸借契約の解除の意思表示は無効である。
イ原告の主張
民事再生法49条2項は,債権者が,再生債務者に対し,再生債務者において契約解除と履行請求のいずれを選択するかについて確答することを催告できることを規定するにとどまり,債権者が催告権を行使すれば解除できる反面これを行使しなければ解除できなくなるということを規定しているわけではない。
したがって,本件特約条項が存在する以上,これに基づいて原告がした本件賃貸借契約の解除の意思表示は有効である。
(4)争点4(原告と被告との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるか)について
ア被告の主張
被告は,平成12年11月分までの賃料及び平成13年1月分以降の賃料については原告に支払済みであり,今後もこれまでどおり支払を継続する予定である。
平成12年12月分の賃料については,被告は,再生手続開始の申立ての直後に出された弁済禁止命令により,同月19日までの原因に基づいて生じた債務の弁済を禁じられたため,同月20日から31日までの日割賃料40万5452円を支払った。
未払である同月1日から19日までの日割賃料64万3458円については再生債権となるが,前記1(5)ウの再生計画によれば,原告は,このうち50万円を超える部分を放棄することにより,平成14年2月20日に50万円の支払を受けることができ,不履行が確定するのは14万3458円に限られることになる。
以上のとおり,不履行が確定する金額が必ずしも高額とはいえないことなどからすれば,原告と被告との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるというべきであるから,原告がした本件賃貸借契約の解除の意思表示は無効である。
イ原告の主張
前記(1)アの本件特約条項の趣旨からすれば,被告において再生手続開始の申立てをしたことだけで,原告と被告との間の信頼関係を破壊するに十分であり,被告が主張するような特段の事情は認められないから,原告がした本件賃貸借契約の解除の意思表示は有効である。
(5)争点5(原告がした本件賃貸借契約の解除は権利の濫用か)についてア 被告の主張
前記(4)アのとおり,再生計画によれば,原告は未払賃料のうち14万3845円の支払を受けられないことになるが,これ自体は必ずしも高額とはいえない上,被告は,平成12年11月分までの賃料及び平成13年1月分以降の賃料については原告に支払済みであり,今後もこれまでどおり支払を継続する予定である。
以上のとおり,被告には,必ずしも高額とはいえない賃料の一部について,弁済禁止命令及び再生計画に基づく不払しかなく,当事者間の信頼関係は未だ破壊されていないのに,原告において本件賃貸借契約を解除することは,権利の濫用というべきである。
イ原告の主張
原告は,前記(1)アの趣旨によって契約当事者間で合意した本件特約条項に基づいて本件賃貸借契約を解除したのであって,これが権利の濫用であることを基礎づける事情はない。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告がした再生手続開始の申立ては,本件特約条項にいう「和議の申立て」に該当するか)について民事再生法は,和議法に代わる再建型倒産処理手続の基本法として,手続開始前の債務者財産の保全のための制度を充実させ,開始原因を緩和し,簡素かつ合理的な債権の調査及びその確定手続並びに再生計画の成立手続を整備するとともに,再生計画の履行確保の手段を設けることなどを内容として制定されたものであり,同法の平成12年4月1日からの施行に伴い,和議法は廃止された(民事再生法附則2条)。
民事再生法のこのような性格及び施行の経緯等に照らすと,同法施行後は,本件特約条項における「和議の申立て」を「再生手続開始の申立て」と読み替えて解釈するのが相当である。
この点,被告は,再生手続の開始原因が和議手続と比較して緩和されたことから,被告がした再生手続開始の申立ては「和議の申立て」には該当しないなどと主張するが,本件特約条項は,「破産,和議の申立て『等』」という文言で規定されており,また,甲2によれば,本件賃貸借契約においては,本件特約条項のほか,仮差押え,仮処分,滞納処分,競売等の手続がなされたときなどにも原告が無催告解除できる旨の定めがあることが認められ,被告に破産原因があるときのみならず,個別の民事執行手続ないし民事保全手続が取られた場合にも無催告解除が認められることとされていることとの均衡も考慮すると,被告の主張は採用することができない。
以上によれば,被告がした再生手続開始の申立ては,本件特約条項にいう「和議の申立て」に該当する。
2争点2(本件特約条項は,民事再生法の趣旨等に反し無効か)について民事再生法49条1項は,「双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始当時共にまだその履行を完了していないときは,再生債務者等は,契約を解除し,又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と規定している。
同条の趣旨は,再生手続開始当時既に有効に成立し,再生債務者に対して拘束力を有する双務契約で当事者双方共に未だその履行を完了していないものにつき,再生債務者の相手方の利益を考慮し衡平を保持しつつ,再生の基盤となる再生債務者財産の毀損・散逸を極力防止し,再生の目的の達成と再生手続の円満な進行を図るため,その処理方法を定めたものと解される。
仮に本件特約条項を有効と解すると,再生手続開始の申立ては,再生手続開始決定よりも必ず先に発生する出来事であるので,賃貸人は常に再生債務者に対して解除権を行使できることになるが,これでは再生の物的基盤を危うくすることになり,民事再生法49条1項の前記の趣旨,更には再生債務者と再生債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって再生債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする民事再生法の目的を没却してしまうことになる。
したがって,本件特約条項中,再生手続開始の申立てと読み替えるべき和議の申立てに関する部分は,無効と解するのが相当である。
よって,原告による本件賃貸借契約の解除の意思表示は無効である。
3結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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